口笛を遠く 永久に祈るように遠く 響かせるよ
言葉より確かなものに ほら 届きそうな気がしてんだ










whistle






「あたし、口笛ふけないんだよね。」

右頬に赤い陽光を受けて人気の少ない公園を歩きながら私はそう呟いた。隣にはネウロが歩いていた。
その公園は切り立った壁の上にあり、手すりの向こうには夕陽に染まった都会の街が見える。
左側には木で作られた簡素なベンチがあった。ただ切って、釘を打った。そんなかんじだった。(要するに手抜き)
私達は朝から散歩がてら謎を探っていたが、ネウロの謎センサー(と私が勝手に呼んでいる毛)は何も反応を示さない。
日も暮れてきたので仕方なく帰ろうと思い、近道のため公園を横切ろうとしているところだった。
淡々と歩いていたが、基本的におしゃべりをしない2人だったため、暇つぶしのため口笛を吹こうとした。
だが口を尖らせてもそこからは空気が通るヒューヒューという音しかしない。
それを見てネウロが笑顔を浮かべた。うわ、悪そうな顔。
少し口を尖らせた。口笛独特の音が出て、メロディを奏でる。

あ、これ。

「口笛だ。よく知ってるね。」
「この歌を歌う者は、地上ではメジャーな歌手なのだろう?」
「うわ、ネウロでも知ってるんだ。意外〜」
「この前テレビに出ていた。」

なるほど、と納得する。でもテレビを見てるネウロって庶民的すぎてちょっと想像できない。
しかし口笛で口笛を吹くとは、恐るべし魔人のシャレセンス。
伊達に青スーツ着てませんね。

「なんだか、失礼な事を思われているような気がするのだが、気のせいか?」
「……気のせいか迷ってるなら、このアイアンクローをヤメテクダサイ。」
そう言うと、ぐぐぐ、と更に力を入れられた。この野郎!
じたばたと暴れる。だが、そのぐらいでは魔人の腕はピクリとも動かない。
それどころか更に力が入って持ち上げられた。きっと4cmは浮いてるだろう。

いや、分かってましたけどね。こうなることくらい。

諦めたように力を抜くと、ネウロはしばらく眺めてからつまらなそうに手を離した。
べチャリと地面に尻餅をつく。こ、の、天邪鬼魔人!!
心の奥の奥にある深淵でそう呟く。さっきみたいに悟られてはたまらない。
それを知ってか知らずか、ネウロはふんと不遜に鼻を鳴らして私を見下ろした。
「しかし口笛も吹けんとはな。ヤコよ、貴様、特技というものはないのか。」
「わっ…るかったわね!特技の一つもない女でー!」
しかめっ面をして思いっきり顔を背けてやる。ネウロはまた底意地の悪い笑顔をすると、歩き出した。
私も立ち上がり服の汚れを払ってからその後を追いかける。
ネウロのコンパスは長いので追いつくまで小走りをしなければならなかった。なんとなく悔しい。

再び口笛が聞こえてきた。ネウロがまた口笛を吹いていたのだった。
それは私への当てつけなのか、口笛が気に入ったからなのか。或いはそのどちらもかもしれない。
ツッこむこともせず、私はただ黙々とそれを聞いていた。






いつもは素通りしてたベンチに座り見渡せば
淀んだ街の景色さえ ほら 愛おしさに満ちてる






真っ赤な世界で、その音だけが響いた。
サディスティックな男が出すものとは思えないほど、優しい音だった。
ネウロを見ようとした。でも、夕陽が逆光になってよく見えない。
眩くて目を細めた。ネウロは気づいた様子もなく、(もしくは気にする様子も無く)口笛を吹き続ける。
それに合わせるように、最後の歌詞だけ口ずさんだ。口笛は吹けないので、歌を歌った。






夢を摘むんで帰る畦道 立ち止まったまま
そしてどんな場面も2人で笑いながら
優しく響くあの口笛のように






終わると、ネウロがこちらを向いた。逆光なのでどんな顔をしているのかは分からない。
「歌も下手だな。」
笑った気配がして、私も笑顔になった。
馬鹿にされてるのに、何故だろう。
「下手で、悪かったわね。」
言い返すと、フン、と鼻で笑われた。そのあとはひたすら無言だった。



歩き続けて、ふと、ああそうかと思う。私が笑顔になったわけ。


きっと、いやな笑いではなかったからだ。
顔は見えなかったけれど、そう、きっと、あの底意地の悪い笑顔ではなかったのだろう。



流石にあの口笛のように優しく穏やかな笑顔は想像できないけれど。




「ネウロ、また、口笛吹いてね。」
そう言うとネウロは意外そうな顔をして、そっぽを向いた。
「我が輩の気が向けばな。」
彼にしては肯定的な言葉だ。そっと、長く伸びる自分たちの影を見た。





こんな帰り道も悪くない。そう思いながら。















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家に帰った後、口笛の練習をしたけどやっぱりできなかった。
次の日、どこで見ていたのかネウロがからかってきた。このやろう…

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